皆さん、こんな悩みはないでしょうか。
- 一生懸命頑張っているのに、なかなか成果に繋がらない。
- 資格をたくさん取ってみたが、業務に反映できている気がしない。
このシリーズは、もしかしたら、そのような方々に効果があるかもしれない
処方箋です。「ベクトル」と聞くと拒否反応を起こす人も、少しだけご辛抱
いただければ幸いです。
前回は、ビジネスにおける「ベクトルを合わせる」について、数学で扱うベクトルとの整合を試みた。
こちらではビジネスで登場するベクトルを解釈するためのモデルを、数学の極座標に準えて「ビジネス極座標モデル」と称しており、そのモデルでスキルはの各値を持つベクトルとして表される。
z軸は意識、意欲、興味・関心といった精神的な部分を担う軸として設定されており、スキルの持つz成分が大きいほど、企業や組織の示す方向性に対する貢献度が上がるという主張を展開した。
そこで今回は、スキルベクトルが持つz成分の正体と、それが最終的に貢献度と
してどう影響するかについて考察する。
※前回分を未読の方は、是非前回分をお読みのうえ、次に進んでほしい。
スキル=知識+経験
前回登場したスキルベクトル:。このベクトルは、
- 向 き:スキルの持つ方向性
- 大きさ:スキルの習熟度
として定義した。そして、企業や組織が掲げる目標とスキルのギャップを表す
角度:でもって、そのスキルが目標に対し貢献出来る度合いを示した。
今回はさらに、スキルベクトル:を二つの成分に分解定義してみよう。
1. 知識(knowledge)ベクトル
2. 経験(experience)ベクトル
なお、このベクトルは、ビジネス極座標モデルの平面において同一方向を
向いている。

次いで、知識ベクトルと経験ベクトルの両者が持つz成分について(つまり、
上図を向こう側に90度倒して横から見た場合について)考える。
昨今、様々な知識がインターネット上に溢れている。
(今風に言えば、コモディティ化している)。たいていの知識は、検索すれば
直ぐに手に入る。直ぐ手に入るものほど直ぐに失われる(忘れる)もので、
「検索しよう」と思った心の動きは認めつつも、それがz成分(意識に対する
働きかけ)として現れる大きさは微々たるものであろう。
したがって、知識ベクトルのz成分は0とする。
一方で、経験ベクトルは、0以外のz成分を持つ。z=0の場合もありうるが、
経験を経てなお心が動かないということは希であろう。
経験が良い影響をもたらす場合
経験では、様々な情報を得ることができる。
1. 理論値と測定値の違い(ばらつき)
2. 理論には登場しない、様々な追加要素
3. 現場でしか得られない、関係者の生の声や想い
4. 現場で得た五感に基づく感情
5. 現場で肌で感じた歴史
6. などなど
経験が良い方向に作用すれば、きっとzの値を大きく押し上げるに違いない。
その結果、と
の合成ベクトルはプラスのz成分を持ち、

その合成ベクトルであると目標ベクトル
のなす角φは小さくなる。
(つまり、貢献度が上がる)。

例えば、レシピ通りに料理をしても、狙った味にならないことがある。屋外の料理などでは、焚火の火力が中火なのか強火なのかもよく分からないまま、強風に火が消えそうになったり、材料を忘れてきて代替品を探したり。そのような課題をクリアしつつも、最後に出来上がった料理はきっと、格別の味であろう。メンバーたちからの「美味しかった」「昔行った、両親とのキャンプの思い出がよみがえってきた」などの声かけは、次につながるモチベーションとなるし、今回の失敗は反省点として、次回への改善点として得難いものとなるだろう。これらは、家の中でレシピだけを眺めていても、なかなか得られるものではない。
経験が悪い影響をもたらす場合
ときには、悪い体験もある。
1. 頑張ったが上手くいかなかった
2. 思ったほどの効果が得られなかった
3. 失敗を非難された
4. などなど
これらは後ろ向きの感情となって、zの値を0以下に押し下げることもあるだろう。その結果、と
の合成ベクトルはマイナスのz成分を持ち、その合成ベクトルである
と目標ベクトルのなす角φは大きくなる。
(つまり、貢献度が下がってしまう)。

例えば仲間内で、屋外での料理に挑戦した場合。凝ったレシピや屋外料理の指南書を手に取りながら、各々で材料や機材の準備等を分担した。ところが最初からトラブルが多発する。雨に見舞われ、地面はぬかるみ荷物や靴はドロドロに。湿った薪になかなか火はつかず、付いても火力はいまいちなうえに多量の煙でむせることになる。忘れ物もいくつかあって、料理の仕上がりは大変残念なものとなった挙句、忘れ物や場所の選定、日取りなどで互いに非難し始め、場の空気は険悪に。
こちらも、家の中でレシピだけを眺めていても得られない経験だが、
「二度とやるものか」
という、負の感情を伴うものとなる。
経験が過剰な場合
高すぎる意識もまた、問題だ。貢献度が最大となるのは、数学的に言えば、経験ベクトルが目標と同じ方向を向くとき。

これを超えると、つまり経験ベクトルが過剰に上向きな場合、逆に貢献度は目減りし始める。
1. 過去の成功体験に固執してしまう
2. 知識不充分で、経験をうまく言語化できない
3. などなど
またこのことは、せっかく集まったメンバーの経験ベクトルのz値を押し下げるような悪影響も生み出しかねない(過ぎたるは及ばざるがごとし)。

例えば屋外料理で、一人が大変なベテランの場合。レシピや場所の選定などに始まり、全てを一人で担ってしまう。他の人は、手間が掛からず楽と言えば楽なのだが、準備する楽しさを独占された気になる。ベテランは準備段階から他のメンバーに一方的な指示を出し、うんちくと武勇伝を語るが、一方で最後までメンバーの意見を聞くことは無い。
「どうだ、俺の言うとおりやって、間違いなかっただろう?」
という最後の言葉に、本人はご満悦だが周囲はげんなり。本人はそれに気づかず次回を計画し、周囲はどうやって断ろうかと頭を悩ませることになる。
全体考察
以上の三例は、経験の量が一緒であっても、経験の質の差が最終的な貢献度の差になることを示している。経験の大きさも貢献度に比例するため、質(つまり意識のありよう)と量(経験時間や内容)の両者が重要であることがよくわかる。周囲を見渡してみると、こんな人たちはいないだろうか。
- 知識も経験も足りないため、とりあえず検索して情報を集めただけの人。
- 試験などに合格した複数の資格保有者であるが、実務経験がない人。
- 知識も経験も豊富な人。
- 知識はあまりないが、豊富な経験がある人。
そしてそれぞれのケースについて、である程度、その方々が携わったプロジェクトなどでの貢献度を説明できないだろうか。
※実務経験がないことを非難する意図はないので、悪しからず。

ここまで分解してみると、「では、どうすればよいか」も見えてくる。経験の方向性が、自然界のように「うまく育てば儲けもの」ではもったいない。良質な指導者(メンター)のもとでよい経験を積み、貢献して成長し一人前となる。そして更新を教え育み、次代に繋げる。全員が一斉に同じ方向を向くのではなく、連綿と受け継がれていくこの流れが、強靭な人と組織を作り上げていくのではなかろうか。
まとめ
- スキルは、知識と経験に分けられる
- 知識だけでは、意識は育まれにくい
- 経験は意識を上下させ、目標に対する貢献度に大きく影響する
- 経験は
- 良い経験 z>0 ➡ φが小さくなり貢献度アップ
- 悪い経験 z<0 ➡ φが大きくなり貢献度ダウン
- 過剰経験 z過剰 ➡ 貢献度が最大を超えて逆に低下
※意識の向く先と目標の方向性が一致したとき貢献度最大
5. スキル育成とは、「知識と経験を適切に伸ばし、偏らせないこと」である
以上、ご参考まで。